花いけだより

大会レポート:関東大会2024

2024年6月16日(日)、東京・池袋にあるサンシャインシティ噴水広場にて、「全国高校生花いけバトル2024 関東大会」が開催されました。

全国12か所をめぐる「全国高校生花いけバトル」地方大会の開幕戦となった今大会は、新しいシーズンのスタートにふさわしい高揚感と熱気にあふれる1日となりました。

半年以上かけて全国をめぐる地方大会では、そのとき、その場所でしか見られない旬の花材も魅力のひとつ。今大会も審査員の華道家・平間磨理夫さんが「こんなにも贅沢な花が揃う大会はほかにないのではないか」と言うほど多くの花材が会場を彩りました。

なかでも、予選ラウンドで一際目をひいたのが、立派な枝ものの数々です。青々と茂るグリーンは初夏ならでは。参加した15校30チームの高校生バトラーたちはその生命力と響きあうように、シャツをはためかせて会場を走り回ります。

モミジやロシアンオリーブ、葉先が赤く色づいたゴンスケハゼにスモークツリー……。もしかしたら、多種多様な花材を「初めて見る」「名前も知らない」という高校生バトラーもいたかもしれません。それでも真剣に枝ぶりや葉の表情を見る眼差しから、花いけバトルにとって一番大切なのは知識や経験ではなく、花の美しさをまっすぐに捉える姿勢なのだと教わったような気がします。

高校生バトラーは、試合前から構成を練り、使いたい花材を話し合い、他のチームがまだやっていない表現に考えを巡らせます。器にどんな順番で花材を入れるかも、大切な戦略のひとつとなります。今大会では、枝ものや流木など大きな花材からいけるチームが多い中、花から生け進めるアプローチをしたチームがありました。

聞けば、じつは緊張で頭が真っ白になって、枝をとりに行くのを忘れてしまったのだとか。しかしバトンを受け取った次鋒が見事にカバー。大きなグリーンのビロウヤシを生けることで、華やかな色合いの花材を引き立たせました。5分間の即興の恐ろしさ、そしてそれを上回る高校生バトラーの気持ちの強さと判断力、そしてみずみずしい想像力が発揮されたワンシーンでした。

常連チームも、初めて花いけに挑むチームも、積極的に花をいける姿勢が印象的だった関東大会。3時間弱におよぶ予選ラウンドを終えた後、審査員のフラワーデザイナー・新井光史さんの講評では「花器の微妙な色を拾って花材を合わせた作品が素晴らしかった」と、技術的な評価もありました。しかし続けて「なにより感動したのは選んだ花材がかぶってしまったときに譲り合ったところ、そして保水の原点を自ら申告したところです」とおっしゃいました。即興の5分間の中では、できなかったこともたくさんあるかもしれません。それでもまっすぐに、誠実に花と向き合った経験は、きっとこの先の人生を豊かにしてくれるでしょう。

予選ラウンドを経て、4チームが準決勝に進出。準決勝からは、1人で作品をつくる個人戦になりますが、チーム内で共通のテーマを決めることで、作品により奥行きが生まれます。

同じ花材を使って統一感を出すチーム、高低差をつけて作品に連続性とまとまりを演出したチームなど、それぞれが練り上げてきた花いけを目一杯やり切りました。

残り10秒の判断が明暗を分けるのが、高校生花いけバトルの世界。ハルシャギクであふれるダイナミックな作品を生けていた「ひともし」の種部さんは、残り10秒で走ります。時間ギリギリで戻り、モンステラを1本口元に差し込みました。そしてゴングが鳴る直前、器がぐらりと前傾。会場から「あっ」という驚きの声と、ため息がもれました。そこであえなく、試合終了のゴング。器をスタッフが支えなければならなくなり、30点の減点です。

試合後「たった1本で全部崩れてしまって……。でも入れたい花材は全て入れられたし、プラン通りに作品を作れたので後悔はありません」と語る種部さんのやりきった後のすがすがしい表情が印象的でした。結果が全てではなく、そこに至るまでに、全力で自分らしくいけられるか。惜しくも敗退してしまった「ひともし」ですが、残り10秒で走り出した種部さんの勇気に拍手を送りたいと思います。

そして迎えた決勝戦は、昌平⾼等学校「ライラック」と東京都⽴⼩⽯川中等教育学校「めがね」の対決になりました。MCの「花は、生けてみなくてはわからない」という言葉が会場に響くなか、ステージには、花を生ける台とまだ空っぽの器が置かれています。「ライラック」は2つ1組のテクニカルな器、「めがね」はボリュームを出しやすい安定感のある花器と、それぞれ対照的な器を選んで最後の戦いに挑みます。

先鋒戦、「ライラック」の新井さんが、赤いジンジャーのワンポイントをいかす繊細な構成で生け進めれば、「めがね」花田さんは竹を斜めに仕掛け、ヒマワリやデルフィニウムでカラフルな力強い作品に仕上げていきます。どちらも一歩も引かない、果敢な花いけでした。

「めがね」が27ptのリードで、次鋒戦へ。「ライラック」が思いを託すように手を握り合えば、「めがね」は力強く腕をぶつけ合い、笑顔で言葉を交わします。個人戦ではありますが、日頃の練習を共にしたチームメイトとだからできる花いけがあるはず。それぞれの思いを抱えて、次鋒へとバトンが渡されました。

初夏の陽気に汗を拭いながら、最後の1秒まで決して諦めずに駆け抜けた5分間。迷いながら走り、生けながら次の展開を想像する。頭も体もフル回転させながら生ける過程には、夢中になって花と向き合うことの素晴らしさがあふれていました。一瞬の判断には、これまで過ごした時間や練習の日々、紡いだ関係性、そして花をい生けたいと思う強い気持ちの全てが詰まっています。その結果生まれた個性豊かな作品には、高校生バトラーの経験が美しい結晶となってあらわれていました。

優勝した東京都⽴⼩⽯川中等教育学校「めがね」の2人。敗退してしまった先輩がいけたハルシャギクや、予選で生けたアジサイをいれるなど、一つひとつの花に思いをこめて生ける姿が印象的でした。全国大会でも「めがね」の2人らしく輝いてください!

準優勝は、昌平⾼等学校「ライラック」です。「生けたい花を、生けたいように生けられた」という⼩俣さんと、「今日1日たくさんの花を見ることができて、より花を好きになることができた」という新井さん。前向きな姿勢はきっと、これからも2人をもっと遠くまで導いてくれるはずです。また来年、ひと周り成長した姿が見られることを楽しみにしています!

予選、準決勝、決勝と白熱した戦いが続いた関東大会。多くの花材にあふれ、そして多くの花材が生けられ、まさに花の楽しさを分かち合うことができた1日となりました。緊張してしまい後悔が残った人も、楽しんで生けられた人も、これからの人生でまた何度も花を生けることができます。ぜひ、花とともにある生活を続けてくれたら嬉しいです。

自分らしい花いけを目指して挑戦を続けた全ての高校生バトラーにエールを贈りたいと思います。