花いけだより

大会レポート✴︎岐阜大会2023

2023年8月10日(木)、ソフトピアジャパン ソピアホールにて「全国高校生花いけバトル岐阜大会2023」が行われました。「第48回 全国高等学校総合文化祭 花いけバトル部門 プレ大会」「第8回 高校生花いけバトル 花きの日大会」を兼ねた岐阜大会は、高校生バトラーたちのやる気と熱気に満ちた、パワーあふれる1日となりました。

ハレの舞台を祝福するように、会場の中央には数多くの花材が、舞台の両サイドには大きな枝物がずらりと並び、高校生バトラーたちの勇姿を見守ります。「岐阜には素晴らしい植物がある。その美しさを一人でも多くの人に伝えたい」という生産者さんたちの思いを乗せて、岐阜県産のたくさんの花材が会場にやってきました。

予選第1ラウンドは、岐阜県立加茂農林高等学校の対決に。ともにユリを手に取り、似たようなアプローチで進みます。しかし、そこは高校生花いけバトル。時間の経過とともに三者三様の個性が見えてきます。

同じ花材を使っても、毎日一緒に練習をしていても、作品には作り手の感性がにじみ出てくる。その様子を実際に目の前で見られるのが、花いけバトルのおもしろさ。やりたいこと、使いたい花、思い描いていたイメージ……5分間という短い時間にそれらを全部詰め込んで、等身大でぶつかっていく姿が印象的でした。

多くの人に見られながら、たった5分間で花をいけること。そんな「非日常」の5分間は、花いけバトルでしか体験できません。緊張して頭が真っ白になったり、思い描いていたようにできなかったり……。それでも、チームで失敗をカバーし、ときには走りながら作戦を練りなおす。そんな姿に、相手を信頼し、自分を信じてやり抜く気持ちの強さを感じました。

今回の岐阜大会には、花を楽しむ気持ちがあふれていました。5分間の中でも、枝を見て「きれいだな」と感じたり、好きな花材を思いっきり使える喜びを感じたり。そんな嬉しさや楽しさが客席にも伝わってきました。技術や経験がなくても、花をいけたいという気持ちがあれば、ときに技術を凌駕する作品が生まれることがある。そんな奇跡の瞬間をたくさん見られた予選ラウンドでした。

予選ラウンドを経て、4チームが準決勝に進出。準決勝では、バランスのとりにくい個性的な器が用意されました。そのままでは花材が入らない難易度の高い器だけに、工夫が求められます。それぞれに頭をフル回転し、5分間めいっぱい手を動かして、自身の作品を仕上げていきます。

難易度の高い月型の器に竹を立てて会場を沸かせたのは「びーとるず」の佐々木さん。「過去にやった中で一番難しかった」と語ったその表情に、やり遂げた後の清々しさが感じられました。

軽くて小さく、安定感のない器に、大きなツツジの枝を立てたのは「兜菊」の林さん。左に倒れることが容易に予想できながらも、あえて挑戦。縦横にバランスを取って、執念で見事に立たせました。

4名が個性を活かして次々に新しい世界を見せてくれた準決勝。何にもとらわれず、自由でのびのびとした所作でいけていく姿は、見ていて気持ちよく、それぞれの想いや情熱がストレートに伝わってきました。色使いや花材の使い方にチームの特徴が表れていて、どのチームが決勝に進んでもおかしくない、興奮の時間でした。

そして迎えた決勝戦。静岡県立田方農業高等学校「雅輝」と岐阜県立岐阜農林高等学校「兜菊」の戦いです。

「雅輝」の佐山さんは、個性的なバナナの枝を思い切って斜めに構成。杉本さんは花材をバケツごと運び、勢いよくいけていきます。個人の作品ながらも、ふたりの見事なコンビネーションで、花材の個性を活かした独創的な作品を見せてくれました。

対する「兜菊」は、花を思う気持ちを100%ぶつけ切った、前向きでパワフルな花いけを見せてくれました。できることを全部出し切る、その気持ちが作品にも現れていたように思います。

次鋒の加藤さんは、準決勝での成功を自信に変えて、準決勝と同じ“すり鉢状”の器を選択。審査員も驚くような難易度の高い挑戦に、はにかみながらも果敢に挑みました。

勢いよく竹を割るも、うまく割れずに苦戦。なんとか立てた後も、器が倒れ残り1分に。それでもとっさに方向転換して全力で走り、両手に花を抱えて戻ってきた10秒前。最後まで花に向き合った姿に、心打たれました。

最後の1秒まで決してあきらめずに駆け抜けた5分間。その結果、できあがった美しい作品に、会場にいた多くの人が同じ思いを抱えていたと思います。

あきらめず、強い気持ちを持って臨むこと。誰もが「もうダメかな」と思うような場面でも、自分や仲間を信じて、前向きに向き合うこと。その先に、人の心を打つパフォーマンスがあるのだと教えてくれた決勝戦。作品に向き合う気持ちが、強さや美しさになって表れることを、身をもって示してくれました。

優勝した岐阜県立岐阜農林高等学校「兜菊」のふたり。1戦1戦を貪欲に、積極的に進んでいく姿に勇気づけられました。準決勝で大きな枝を立て、自信をつけて臨んだ決勝戦。そんな気持ちの変化が、ふたりを優勝に導いたのだと思います。

惜しくも準優勝となったのは静岡県立田方農業高等学校「雅輝」。その前向きな姿勢、植物を行ける気持ちにパワーをもらいました。今までに見たことがないような、素晴らしい作品で新しい世界を見せてくれたふたりに、挑戦することの大切さを教えてもらった気がします。

予選、準決勝、決勝と、白熱した戦いが続いた岐阜大会。パワフルで個性あふれるパフォーマンスを見せてくれた25チーム50名の高校生バトラーたちにエールを送りたいと思います。これから先、どんなことがあっても、仲間を信じ、最後まであきらめず、一人ひとりが自分らしく花を咲かせてもらえたらと願っています。