花いけだより

大会レポート✴︎宮城大会2023

2023年10月22日(日)、宮城県庁舎 2階講堂にて「全国高校生花いけバトル宮城大会2023」が行われました。宮城県を中心に山形県、岩手県から集まったのは9校16チームの高校生バトラーたち。一気に冷え込んだ東北の地で、寒さを吹き飛ばす熱いバトルを繰り広げました。

晩秋に近づき高校生たちが制服を衣替えしたように、花材も秋らしく色づいたものが会場に並びました。特に立派だったのは、地元・宮城県の山から切り出してきた枝ものたち。25種類はあろうかというバリエーション豊かな枝ものを前に、高校生たちはイマジネーションを膨らませます。「自分たちだったらどういける?」。真剣な眼差しから、そんな闘志が伝わってくるようでした。

予選ラウンドで多く見られたのが、2mはあろうかという大きな流木。くねくねと曲がった独特な表情が存在感を放ちますが、重さもあり扱うのは簡単ではありません。両手で抱えるようにして持ち上げ、たくさんの高校生バトラーがこの流木に挑みました。

器の反対側を竹で支えてバランスを取ろうとしたチーム、地面から立ち上がるように器に立てかけたチーム……。難しい花材を扱う時にこそ、日々の練習で培った技術や一瞬のひらめきが試されます。悪戦苦闘しながらも果敢に挑戦する姿からは「自分らしい花いけがしたい!」という気持ちが全身からほとばしり、会場までその熱気は確かに伝わってきました。

2人でひとつの作品を作る予選ラウンドでは、先鋒が流木で土台を作り、次鋒が花で色づけていく展開がよく見られます。「先鋒は、大きな枝ものを使うのが得意なチームメイトに任せました」という試合後のコメントにもあった通り、高校生バトラーは役割分担をしてステージに立ちます。

日々の練習の中で壁にぶつかり、苦手なものが見つかることもあるでしょう。それでも自分が得意な部分を見つけ、研ぎ澄ましていく。苦手なところはチームメイトに託し支え合う。そんなチーム戦が見られるのが予選ラウンドならではの魅力です。

終わってみれば「もっとこうすればよかった」「イメージと違ったものになった」と、悔しさをにじませる声が多かった予選ラウンド。どんなに練習を重ねても、計画を立てても、想像通りにはいかないのが即興の花いけです。

しかし、大会冒頭にフラワーデザイナー・曽我部 翔さんが「このステージに上がる決意をした時点で、みなさん勝者だと思います」と語ったように、大切なのは勇気を出して一歩を踏み出すこと。初出場の高校生バトラーも、常連の高校生バトラーもそれは同じです。自分らしい花いけをするために真っ直ぐに花と向き合ってくれたすべての高校生バトラーにエールを送りたいと思います!

予選ラウンドを経て、4チームが準決勝に進出。他の地方大会では強豪校が上位を独占することが少なくない中、今大会では4チームすべてが違う学校。出場校の実力が拮抗する激戦区で、決勝ラウンドも白熱したバトルが続きました。

 

準決勝第1ラウンドから、個性をぶつけ合う激しい展開に。予選1位通過の盛岡中央⾼等学校「リンドウ’s」がドウダンツツジなどの枝ものを合わせて、奥ゆかしく秋らしい風情を演出すれば、予選4位通過の宮城県柴⽥農林⾼等学校「華光」はアレカヤシやビロウヤシをふんだんに使い、鮮やかでトロピカルな作品に仕上げました。

地元・岩手県の名産であるリンドウを名に冠す「リンドウ’s」が予選でも準決勝でもリンドウの花をいけていたことは印象的でした。「リンドウ’s」阿部さんの「リンドウを手に取ったら安心していけられた」というコメントからは、花を愛し、花に癒される姿が見られ嬉しく思いました。

準決勝第2ラウンドでは、器が転倒するハプニングが。細長くバランスをとるのが難しい器を流木ではさみ安定させるというアイデアで、順調にいけ進めていた矢先、残り20秒をきったところでした。必死のリカバリーをしますが、無情のゴング。一度安定しても、バランスを崩すリスクを抱えながら勇気を持っていけ続ける果敢な花いけは、手に汗握る素晴らしいパフォーマンスでした。

迎えた決勝戦は、宮城県柴⽥農林⾼等学校「華光」と宮城県宮城第⼀⾼等学校「フルリール」の戦いに。

まずは先鋒戦「華光」の松岡さんが魅せます。予選ラウンドでも登場した、あの2mにおよぶ流木に挑戦。見事に安定させ、立体的に配置したあせびの枝と合わせてダイナミックな作品に仕上げました。一方の「フルリール」の青木さんは、ひとついけたら一歩下がって全体を見る。細部まで目を凝らし、最後まで丁寧な所作で終始冷静に作品をいけきりました。

優勝校が決まる、運命の次鋒戦。試合開始のゴングが鳴ってからの数十秒、会場を駆け回る高校生バトラーのスピード感と、台の上のまっさらな器の静かな佇まいとのコントラストに、緊張感と興奮を覚えずにはいられませんでした。

「フルリール」の小泉さんはゴールドに光る器に合わせて長い時間をかけて選んだイエロー系の花材でまとめ上げ、対する「華光」の大沼さんは真っ白なアレカヤシを背景に、淡いオレンジの百合、そして中心に濃いオレンジのダリヤをあしらってグラデーションに仕上げていきます。

残り10秒、「フルリール」の小泉さんは作品を真剣に見つめ全体のバランスを調整していました。一方駆け出したのは「華光」の大沼さん。新しく手にしたドラセナを真ん中に挿し入れるとほぼ同時に試合終了のゴングが鳴りました。たった1つの花材で作品は、わずか10秒前と全く違った表情を見せました。花いけにかける気持ちの強さが美しさとして現れたかのように、そのドラセナはしなやかに立ち上がっていたのです。

優勝した宮城県柴⽥農林⾼等学校「華光」のふたり。昨年予選で敗退した悔しさを力に変えて優勝を導いた、ふたりの1年間に拍手を送りたいと思います。全国大会でも、ふたりの花いけが見られることを楽しみにしています!

惜しくも準優勝となったのは宮城県宮城第⼀⾼等学校「フルリール」。常に笑顔でエネルギーに満ち溢れたふたりの雰囲気は、花いけにも存分にあらわれていました。初出場ながら、堂々としたパフォーマンスで、会場を魅了する作品を作り上げました。

予選、準決勝、決勝とラウンドを重ねるごとに、作品に磨きがかかった今大会。昨年予選敗退だった「華光」が今年優勝したように、どの高校生バトラーにも光るポイントがあり、大きな伸びしろを感じることができました。

また、試合後に「ここで挑戦しなかったら後悔すると思って、思い切ってチャレンジした」というコメントがあったように、前向きに挑戦し続ける姿勢がこの大会の大きな特徴でした。その心がきっと、誰よりも自分らしく、そして誰よりも楽しく花いけをするための秘訣です。また来年、ひとまわり成長した皆さんの花いけが見られることを心待ちにしています!